訴訟と捜査の現場から

疑惑は黒か白か――岡田和生氏が抱える訴訟のいま

【B】
TRAから無断で1600万香港ドルの小切手を振り出した件

この件の概要とポイント

  • 問題になっているのは、TRAから1600万香港ドル(=日本円にして2億円相当)の小切手が宛先無記名のまま振り出されたこと
  • つまり、誰に支払うのかもわからないまま会社から大金が流出した形になっている
  • 後日換金された小切手には、受取人として「SKYRISE TRADING LIMITED」なる社名が入っていた
  • ユニバーサルエンターテインメントグループとSKYRISE TRADINGなる会社の間に取引関係はなく、受取人の素性は不明
  • 小切手を振り出すにあたって用意された稟議書には「美術品の手数料として支払います」という岡田和生氏の手書きメモがあるため、1600万香港ドルは氏に関連した支出であった疑いもある
  • 岡田和生氏は2017年9月14日に開いた記者会見でこの小切手について「封筒に入った小切手を預かって、別の者に渡しただけだ」と話していた

【B】の事案でも、会社サイドはたしかな証拠でもって立証しようとしています。尋問当日には、こんな資料が提示されました。

【B】の事案で提示された主な証拠資料

  1. TRAから振り出された小切手(の写し)
    Pay(=支払先)欄はたしかに誰の名前も入っていない。Signature(=署名)欄には岡田和生氏のサインがある。
  2. 小切手に関連して作成された稟議書
    これは、小切手が交換に回ったときに備えて、TRAの銀行口座に1600万香港ドルを用意するためのもの。「決裁印及びコメント」の欄には岡田和生氏のサインがある一方、起案者の名前などは一切ない。つまりこの稟議書は岡田和生氏が起案し、自ら承認したようなものになっている。また、この小切手には別途「美術品の手数料として支払います」なる手書きメモも添えてある。
  3. 小切手に関連して作成された送金指示書
    前出の稟議書に従って、ドイツ銀行の香港支店に送金を指示するもの。Signature欄には岡田和生氏のサインがある。
  4. 後日交換に回った小切手そのもの
    1600万香港ドルの受取人として、手書きで「SKYRISE TRADING LIMITED」と書かれている。
  5. Pay(=支払先)欄に「Kazuo Okada」と書かれた小切手
    小切手振り出しの事務にあたった経理担当者によれば、この小切手は岡田和生氏から口頭で指示を受けて作ったもの。この小切手にも岡田和生氏のサインが入っている。ただ、このあと支払先を空欄にした小切手(つまり上記1の小切手)を作るよう改めて指示されたため、この小切手は破棄したという。破棄したとされる小切手には、この証言を裏付けるように「VOID」(=無効)の文字がある。

 

問題の小切手がある(1)。小切手が交換されたときに備えて、銀行の口座に1600万香港ドルを用意しておくよう手配するための稟議書(2)と送金指示書(3)もある。そしてこれらにはすべて、岡田和生氏のサインが入っている――。

はた目に見れば、これらは岡田和生氏が小切手を振り出した証拠として十分だと言えそうなものです。しかし、当の本人はこういった資料を前にしても、悪びれることなくこんなニュアンスの言葉で返答しました。

「私は事務的にサインしているだけです」

書面にサインをしたことは認める。でも、書面の内容を理解していたわけではない。部下が用意したものは信用していたから。こういうわけです。……いやはや。




時間などの都合上、重要な文面を見落としたりすることがまれにあるだろうことは否定しません。しょせん人間のやることです。ミスはどうしたって生じます。

ただ、岡田和生氏のケースが奇妙なのは、【B】の事案に限らず、この訴訟で取り上げられた書面すべてについて「事務的にサインをしていた」といったニュアンスの返答で済ませていることです。しかもそれでいて、この訴訟と直接関係のない稟議書については、ひとつひとつ氏が念入りにチェックしていることを認めてしまうようなシーンもありました。

尋問のやりとりから
※文中にある()内は当サイトがつけた補足

原告代理人:そうすると、あなたはTRLEの稟議書の内容を確認して、セントエレナは信用できる業者ですとか、支払いについて承認しますとか書いて、サインをしたということですか?

岡田和生氏:そのとおりです。これは(フィリピン事業の)支払いに対する稟議書じゃないですか。セントエレナという会社について私は調べて、彼らの財産がしっかりしているということがわかった時点で、セントエレナはよい会社ですよという意味で書きました。

尋問のやりとりから
※文中にある()内は当サイトがつけた補足

原告代理人:こちらもTRLEの稟議書なんですけれども、こちらの中央上のサインと右側の手書きの書き込み、これもあなたがしたことですか?

岡田和生氏:これはプロジェクト管理、AMCONという会社に対して、信用できないかもしれないよということが書いてあります。でも、関係ないでしょう? (訴訟で取り上げられている)貸し付けと。

これではまるで、自分にとって都合の悪い書面にだけ「事務的にサインをしていた」と言い訳しているようではありませんか。




それと尋問では、岡田和生氏からこんな発言もありました。

当事者尋問から

(小切手を)私が手渡すとか、私が振り出すとか、そういうことは一切ございません。

これは明らかにおかしな発言です。氏は、2017年9月14日に開いた記者会見で、たしかにこう語っていたのです。

記者会見から

封筒に入った小切手を預かって、別の者に渡しただけだ。

引用元:パチスロ大手が「創業者の2億円不正流用」 香港で被害届

小切手を手渡したか否かというのは、あくまで岡田和生氏自身がとった行動の話です。間違うわけはありません。なぜ前言を翻すのでしょう? どうにも稚拙さがにじみ出ているように見えてなりません。

なお、もののついでにふれておきますと、岡田和生氏の陣営からも「氏が小切手を振り出したわけではない」ことを証明しようとする資料は出ていました。下記がその資料、部下に提出させた陳述書の一節になります。

臼井孝裕氏の陳述書から
※基本的に原文ママ
※文中にある()内の注釈は当サイトがつけたもの

この小切手交付については、●●(※事案Aにも関わった側近Xの名前)がスタッフに指示をして小切手を交付したのです。

会長(※岡田和生氏のこと)は、英語が使えないという言葉の問題もあり、外国人スタッフに一切指示は出せません。会長は自ら外国人と直接コミュニケーションを取るということはないのです。現実的に、スタッフを使って指示をしているのは、常に●●氏が行ったものです。

文面だけ読むと、「なるほど、一理ありそうな話じゃないか」と思われるかもしれません。たしかに。

しかし、文面にある根拠は、取るに足らない話だと断言します。なぜなら岡田和生氏から直接口頭で指示されて小切手の振り出し事務にあたったと証言している経理担当者(=上記の陳述書が言うところの「外国人スタッフ」)は、生まれ育った香港の母語である広東語とは別に、英語と日本語でも難なく会話と読み書きができるトリリンガルなのですから。彼女はこの訴訟に関連して、日本語でつづった陳述書も提出しています。




【C】
UEコリアに担保の提供などを強要した件

この件の概要とポイント

  • 話としては【A】【B】【C】3件のうち最も古く、2010年代前半までさかのぼる
  • オカダホールディングスの子会社として設立されたオカダコリア(正式名称:Okada Holdings Korea co., ltd)が韓国で事業に着手していたころの話
  • 問題は、現地の土地取得にあたって必要な資金を、オカダホールディングスがオカダコリアに代わって銀行から借り入れたことに端を発する
  • ユニバーサルエンターテインメントの子会社・UEコリアは、この融資で必要になった担保を提供させられた
  • 韓国の事業は結局まとまらなかったのか、オカダ陣営はほどなくして撤退を決め、そこで銀行融資も返済した
  • UEコリアは、オカダ陣営が融資を返済するタイミングにおいて、融資の利息ぶんにあたる金額も負担させられている
  • まとめると、オーナーの立場にある者がUEコリアに担保や手数料の負担を強いたことになるわけで、不当な利益供与にあたる

最後は【C】、韓国が舞台になった事案です。

この事案に対する岡田和生氏の主張は、「オカダコリアが設立されたことからして知らなかった」といったニュアンスのものになっています。当時、自分の知らないところで2人の部下が勝手にオカダコリアなるものを設立していたのであり、ずいぶんあとになるまでその事実は知らなかったのだと。

しかし、この主張もまた、会社サイドが提示した証拠資料と照らし合わせていくと、首をかしげたくなるようなものになります。次のリストをご覧ください。

【C】の事案で提示された主な証拠資料

  1. オカダコリアの設立に向けた決定書面
    書面には「1.韓国への投資」などと明記されており、韓国にオカダホールディングスの子会社を設立する旨や、その準備のために部下のひとりをオカダホールディングスの取締役として選任する旨が明記されている。署名の欄には、岡田和生氏のサインも見つかる。
  2. 当時UE社の管理本部長だった役員から岡田和生氏に宛てたメール
    メールのなかでは、オカダグループに代わってUEコリアが銀行に担保を提供するとなれば特別背任罪に抵触しかねない、と指摘している。当該役員は融資のスキームを知ったあと、まもなくこのメールを送っていた。このメールに対して岡田和生氏が返信した形跡もあるため、氏は当時内容を読んでいたと考えられる。
  3. 2011年11月1日付けThe Asia Business Dailyの記事
    オカダコリアが設立された翌月に掲載された記事。なかでは、韓国の仁川経済庁とオカダコリアが複合型リゾートに関する投資覚書を締結したと報じ、岡田和生氏の写真も掲載している。

どうです? 百聞は一見にしかず、ではないでしょうか。100歩……いや100万歩ゆずって、証拠資料の1は氏が再三主張したように「事務的にサインしたもの」であったとしても、2や3はどうでしょう? とくに、3については言い逃れできるような類の話であるように思えません。

笑顔で写真におさまる岡田和生氏のバックには、はっきりと「Okada Holdings Korea」の文字が確認できます。




これは「後ろから刺してきた」代償か

【A】や【B】の事案に関わった(かつての)側近Xによれば、こうやって岡田和生氏が知らぬ存ぜぬといった態度に出るのは、何もいまにはじまったことではないようです。彼は、会社サイドの証人として出廷したなかで、このあたりの内情にふれていました。岡田和生会長は自分に不利益なことがあると、すべて部下のせいにして責任を押し付ける。こんな傾向があると知ったからこそ、会長から下った指示はなるべくSMSやメールといった形あるものとして残してきたのだと。

証人・側近Xの尋問から

証拠を残したほうがよいということは周りからの助言だったんですよね。そのなかで、ある人間がうまいこと表現するなと思ったのが、「とにかくうまくいかないと、いきなり責任とらされて後ろから刺されるから。おまえ、気をつけたほうがいいよ」と。表現としてはあまり適切じゃないですよ。でも、そういうことを言われた社員がいたんで。それは非常に心に残っていたというのが私の思いです。

岡田和生氏から煮え湯を飲まされた人たちが幾人もいて、彼らの経験や助言が今日の訴訟につながっているとすれば、まさに因果応報というものです。

長きに渡って部下たちを身勝手に使い、ときに切り捨ててきた岡田和生氏は、ここにきて積年の精算と償いを強いられることになるのかもしれません。




――経営者たる者、忘れてはならない理念があります。

「企業は人なり」、です。

【「松下電器は人を作る会社です。あわせて家電を作っています」】

※2019年11月22日追記

2019年11月21日に、こちらの損害訴訟請求訴訟が結審しました。一審の判決は2020年2月13日に言い渡されます。

※2020年2月13日追記本日、被告である岡田和生氏に、およそ2129万円を支払うよう命じる判決が出ました。つまり、ユニバーサルエンターテインメントサイドの勝訴です。

裁判官は、「問題となっている行為(3件)をすべきではなかった」「(会社と)事前協議手続きをするべきだった」と結論づけ、岡田和生氏に取締役としての善管注意義務違反や忠実義務違反があったとの見解も示しました。

損害賠償請求訴訟に判決下る 東京地裁は岡田和生氏に支払命令

岡田和生氏と、ユニバーサルエンターテイメント。両者が日本の法廷で火花を散らしたその第一ラウンドは、会社サイドの勝利という結果になりました。 ユニバーサルエンターテインメントに軍配 このたび裁判所が判決 ...

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