渦中のユニバーサルエンターテインメント

ユニバーサルエンターテインメントの株主代表訴訟に見た「不可解」

さて、こうやってコトの経緯を振り返ってみるとわかるように、この株主が富士本淳社長の提訴に動いたのには、実力行使のような側面があると考えられます。訴訟を通じて富士本淳氏がユニバーサルエンターテインメントの社長にふさわしい存在ではないと立証できれば、岡田知裕氏に翻意をうながせる。たとえばこんな風に思案していたとしても不思議ではないでしょう。事実、訴訟のなかで原告株主は、「現在もユニバーサルの経営は創業家の御曹司である岡田知裕が行うべきであると思っている」と明言しています。

訴訟の概要
訴訟提起の日付 管轄の裁判所
2019年8月26日 東京地方裁判所
原告 被告
株主X 富士本淳
訴訟の内容
ユニバーサルエンターテインメントの株主1名が、同社の代表取締役社長・富士本淳氏を相手取ってはじめた訴訟。いわゆる株主代表訴訟に該当する。原告は、「富士本淳が会社から約4350万米ドルを不正に流出させた」として提訴した。リンク先の訴訟(こ)に該当。

ただ、実際にこの訴訟を通じて富士本淳社長に何かしらの責任を追及できるかといえば、とてもそうは見えません。




この訴訟において重要な事実のひとつは、「原告株主が富士本淳社長の追及材料にしている件は岡田和生氏の主張だけが頼りになっている」ということです。会社の代表取締役社長を相手取って訴訟に打って出るのなら、この株主は何か十分な確証を持っていそうなものですが、そんなものは何ひとつありません。原告株主は、2019年になってから岡田和生氏が主張しはじめた、「富士本淳は2012年にユニバーサルエンターテインメントの資金4350万米ドルを不正に流出させた」という話をなぞっているだけなのです。「不正があった」とする根拠として、原告株主から裁判所に提出した資料も、岡田和生氏が別件の訴訟で提出していたものにすぎません。

「4350万米ドル」は岡田和生氏も承認していたという事実

そして、もうひとつ重要な事実、決定的な事実として指摘しておきたいのは、岡田和生氏が主張したこの4350万米ドルについては、ユニバーサルエンターテインメントの取締役会でたしかに決議されているということです。これは、岡田和生氏が氏の独断でユニバーサルエンターテインメントグループから1億3500万香港ドル(日本円にしておよそ20億円)を流出させていた事例などと異なる大きなポイントでしょう。しかも、この4350万米ドルを取締役会で決議したと記録した議事録には、あろうことか岡田和生氏本人のサインと押印まで残っています。……いやはや、こうなるとこの件は、岡田和生氏による単なるでっち上げだったと言ってよさそうです。

富士本淳社長陣営によるその他の説明要旨

  • 4350万米ドルの資金は2012年5月7日の取締役会で決議し、了承を得たもの
  • この決議には岡田和生氏も当時取締役会長として同意し、署名・押印をしている
  • 資金は主に技術開発の分野に充当
  • 具体的には、中国科学院や清華大学などの協力を得ながら研究開発した技術の権利取得に充てた
  • ここで取得した権利の成果物が「ビルバリ(紙幣識別機)」、「RFIDタグを使ったカジノテーブルおよびカジノチップ」
  • いずれもすでに製品化済みで、現在フィリピンのIRリゾート・オカダマニラで稼働している
  • ビルバリについては、さまざまな国の紙幣をその場で特定の国の現金に両替できる「マルチカレンシーシステム」の開発にもつながった
  • 一部の製品は外販もしている
  • 4350万米ドルの資金は、すべてを使いきったわけではない
  • 最終的に支出にあてられなかった5040万4623.95香港ドル(1香港ドル=12.12円のレートで換算して6億1090万4042円)は会社に戻ってきている
  • 資金の預け先になっていたのはフレックスコンサルティング社の伊藤毅(いとうたける)代表
  • 同代表がいわゆるエスクローの役割を担い、関係各所とユニバーサルエンターテインメントをつなぐ橋渡し役になった
  • これは、資金の出し手と受け取り手の双方が安心して取引するための方策
  • こういった形にしなければ、資金を出しても目的のものが取得できないリスクと向き合うことになる
  • この点は取引相手からしても同様のことが言えるわけで、ゆえに第三者による仲介が必要だった
  • この資金については、社内に設けたゲーミングコンプライアンス委員会にも当時その詳細を報告していた
  • ゲーミングコンプライアンス委員会が開催する会合の内容は、米国ネバダ州でゲーミング産業を規制・監督する行政機関に報告するルールになっていたので、当然この資金についても伝わっている

一応、原告陣営はこういった議事録などを見てもなお食い下がる姿勢を見せ、訴訟を続行していますが、4350万米ドルの1件が不正だとする決め手のような反論は出せていません。

くだんの資金拠出によって技術の権利を取得した時期と、関連する特許の申請時期は前後関係がおかしい――こんな指摘をしてみるものの、富士本淳社長陣営から「特許申請は技術の開発より先に進めるもの」「先願主義が採用されている我が国の特許法のもとでは、技術を発明したあとで特許出願を行うことなどありえない」と一蹴されると、挙げ句の果てには「資金拠出を承認した書面にある岡田和生氏の署名は本人のものではない」「富士本淳が岡田和生に成り代わった可能性も否定できない」などと言い出す始末です。さすがにこんな対応は苦しまぎれというほかないでしょう。




思い起こせばそもそも岡田和生氏の主張した「富士本氏は過去に不正な送金を実行している」という話は、当初から矛盾だらけのものであることが明らかであり、それにもかかわらず、氏の主張だけを頼りに訴訟に打って出るというのは奇妙なことでした。また、原告陣営は提訴当日に記者会見を開いて岡田和生氏の主張がさも事実であると喧伝するようなことまでしているわけで、これはたとえるなら、岡田和生氏が悪意でもって火をつけにいったところにガソリンをまいたようなものです。ひょっとして原告陣営は、ユニバーサルエンターテインメントの経営体制を自分たちの望むような形にするためなら、どんな手段もいとわない、という考えなのでしょうか? 訴訟を通じて4350万米ドルの件が何だったかはっきりさせるような効果はあったかもしれませんが、どうにも乱暴なやり方に見えてなりません。







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2022年9月10日追記

2022年6月30日に一審判決が出て、原告の請求は棄却されましたが、訴訟は係属するようです。この訴訟が控訴審に進んでいたことを確認しました。

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