かつてはテレビや雑誌にまで取り上げられて、若手のホープとばかりに喧伝されていた弁護士が、いまや処分の対象として審査を受ける立場にあるのですから、人生わからないものです。もっとも、足もとの状況については、当の本人からしても想定外の事態なのかもしれません。「こんなはずではなかった」、と。
「あの」弁護士が懲戒処分に直面
かつて、ユニバーサルエンターテインメントの法律事務を受託していた荒井裕樹弁護士。彼がいま、弁護士として懲戒処分を受けるかもしれない、そんな瀬戸際に追いやられています。
荒井弁護士といえば、2000年代には特許にまつわる訴訟や、税務当局を相手取った法人税絡みの訴訟などで、めぼしい成果をおさめ、一時はマスコミでも華やかに取り上げられていたような弁護士ですから、その彼が懲戒処分の対象になるなど、にわかには信じがたいかもしれません。しかし、これはたしかに第一東京弁護士会で進展しつつある現実です。
2000年代には、飛ぶ鳥を落とすような勢いだった荒井弁護士。当時は、TBS系のドキュメンタリー番組「情熱大陸」も彼を取り上げました。「弁護士という仕事に真摯に取り組む人間」――そんな具合に。
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荒井裕樹(弁護士):情熱大陸
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こういった事態になったのは、過去に荒井弁護士がユニバーサルエンターテインメントを相手方にして結んだ契約と関係します。
大きな問題と見られているのは、2013年に交わした契約において、荒井弁護士サイドが契約の主体を自分自身ではなく、彼の所有する、ウェル・インベストメンツ・リミテッドという法人にしていたこと。それと、この法人の実態です。当該法人は、英国領ヴァージン諸島に籍を置く、単なるペーパーカンパニーのようなものでしかなく、弁護士法人ではなかったため、この契約は「弁護士以外の者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱ってはならない」と定めた弁護士法に違反するのではないか、と考えられているのです。
e-Gov法令検索から
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。
引用元:弁護士法
賠償額を11億円と見積もった訴訟で攻勢をかけたものの
弁護士界隈の話によれば、荒井弁護士の懲戒事案は、すでに第一東京弁護士会の綱紀委員会を通過して、同弁護士会の懲戒委員会で取り扱うことが決まったそうです。過去のデータでは、懲戒委員会で取り扱うと決まった事案のうち、少なくともふたつにひとつが懲戒処分の対象になったとはっきりしていますから、荒井弁護士からすると、好ましい状況にないことはたしかでしょう。
下記の図をご覧いただくとわかるように、荒井弁護士の事案はいまのところ懲戒処分に向かっています。
多くの事案は、綱紀委員会から先の工程に進みません。その代わり、懲戒委員会が審査を開始した事案は、おおむねその半数強が懲戒処分に至る、という結果になっています。これは、過去20年超の記録から見て取れる傾向です。詳しくは、下記のリンク先をご覧ください。
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弁護士に対する懲戒請求事案集計報告(平成5年以降の分)
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参考:弁護士に対する懲戒処分の種類
処分 | 内容 |
戒告 | 弁護士に反省を求め、戒める。 |
業務停止 | 最長で2年、弁護士業務を禁止する。 |
退会命令 | 弁護士たる身分を失う結果、弁護士としての活動ができなくなる。ただし弁護士資格がなくなるわけではない。 |
除名 | 弁護士たる身分を失い、弁護士としての活動ができなくなるばかりか、3年間は弁護士資格も失う。 |
参照元:日本弁護士連合会:懲戒制度
こういった展開に至る契機になったと考えられるのは、この件に関連した訴訟が決着したことと、そこで荒井弁護士に不利な判断が下されたことです。
訴訟は、荒井弁護士からはじめたものでした。ユニバーサルエンターテインメントと、その関係者合計12名を相手方にして、見積もった賠償額はなんと11億円。おそらく、彼としてはここから反転攻勢に出るもくろみだったのでしょう。
決着した訴訟の概要 |
訴訟提起の日付 | 管轄の裁判所 |
2019年1月17日 | 東京地裁→東京高裁→最高裁 |
原告 | 被告 |
荒井裕樹 | ユニバーサルエンターテインメント、 富士本淳、徳田一ほか、 取締役や顧問弁護士など |
訴訟の内容 | |
ユニバーサルエンターテインメントが、弁護士会に対して荒井裕樹弁護士の懲戒処分を請求したことと関連。荒井弁護士は、ユニバーサルエンターテイメント陣営のとった行動が名誉毀損にあたるとしてこの訴訟を提起した。リンク先の訴訟(く)に該当。 |
しかし、結果は彼の全面敗訴です。荒井弁護士から請求した賠償額は1円たりとも認められなかったばかりか、判決文のなかには次のようなニュアンスの文言まで盛り込まれました。
判決文にあった文言の要旨
「ウェル・インベストメンツ・リミテッドは、弁護士または弁護士法人ではない」
「本件契約が弁護士法72条に違反すると考えることには、合理性が認められる」
ウェル・インベストメンツ・リミテッド名義で結んだ契約の合法性に疑念を残したことは、荒井弁護士にとって敗訴という結果以上に、大きな懸念材料ではないでしょうか。はた目には、懲戒処分が現実味を帯びつつあるように見えます。
荒井裕樹弁護士の懲戒をめぐる動き

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