元関係者とのつながり

「青色LED訴訟」請負人の落日(1) 気鋭の弁護士 荒井裕樹の成れの果て

通称「青色LED訴訟」を担当した新進気鋭――。かつてはそんな風にして名を馳せた男が、いまシビアな状況に直面しつつあります。「弁護士・荒井裕樹」。今後、この名が改めて世間の注目を集めるとすれば、かつてのような名声ではなく、当の本人にとって、ひどく不名誉な形になるのかもしれません。……もっとも、すべては身から出たサビに思えてならないのですが。

荒井裕樹弁護士著「プロの論理力!」

気鋭の弁護士らしからぬ「ケンカ」

荒井裕樹弁護士とユニバーサルエンターテインメントといえば、長らく「法律事務を担当する弁護士と、その委託元」という関係にありましたが、それはあくまで昔の話です。司法の場では数年前から、「岡田和生とユニバーサルエンターテインメントの対立」と並行して、「荒井裕樹とユニバーサルエンターテインメントの対立」という戦いも続いてきました。

両者の対立は、ある訴訟に関連した成功報酬の多寡で、真っ向から衝突したことに端を発します。

双方から出てきた報酬額を比べたとき、どのくらいの開きがあったのかといえば、それは100万円だとか1000万円だとかといった規模ではありません。ユニバーサルエンターテインメントが13億円と見積もったのに対して、荒井弁護士から請求した金額は1億米ドル、つまり100億円超にものぼりました。

それでも、ここで協議の場が設けられたりしたなら、いまの対立はなかったかもしれません。しかし、ここから荒井弁護士は、強硬な行動に打って出ました。「請求額を支払わなければ訴訟も辞さない」。そう通告したのです。




こうしてまもなく、この件は実際に、荒井弁護士の手によって「金銭債務支払請求訴訟」なる名目で東京地裁に持ち込まれます。そして、ここから荒井裕樹とユニバーサルエンターテインメントの全面的な法廷闘争へと発展していくのでした。

2018
荒井サイドから金銭債務支払請求訴訟を提起

訴訟の原告は、荒井裕樹が代表を務める会社、ウェル・インベストメンツ・リミテッド。被告はユニバーサルエンターテインメント。原告は、被告に1億ドル超の成功報酬を支払うよう求めている。

ユニバーサル社から荒井サイドに損害賠償請求訴訟を提起

ユニバーサルエンターテインメントは、ウェル・インベストメンツ・リミテッドとその代表者である荒井裕樹に対し、合計878万2200円の過払い金があるとして、訴訟を提起した。2020年12月現在、この訴訟は、上記Aの訴訟とまとめて審議されている。

ユニバーサル社が弁護士会に荒井個人の懲戒請求を申し立て

ユニバーサルエンターテインメントは、懲戒請求に動いた理由として、荒井個人によるいくつかの行為が、弁護士法72条などに違反すると考えたことを挙げた。

2019
名誉毀損を受けたとして荒井が新たに損害賠償請求訴訟を提起

訴訟を提起した荒井によれば、ユニバーサルエンターテインメントが荒井個人の懲戒請求に動き、そのことを会社のウェブサイト上で公表したことは名誉毀損にあたる、とのこと。被告には、ユニバーサルエンターテインメントの役員や顧問弁護士などの名前が並んだ。

ここまでに示した経緯を見るとわかるように、この対立は、言うなれば荒井弁護士から売ったケンカです。しかし、いまのところ彼の旗色はよくありません。ユニバーサルエンターテインメントによる名誉毀損行為があったとして、荒井弁護士から提起した損害賠償請求訴訟(=上記タイムラインの「D」)は、一審と二審いずれも彼の敗訴に終わりましたし、判決文のなかでは裁判官から次のような言葉も浴びせられています。

「ユニバーサルエンターテインメントが懲戒請求の理由として示した見解は、いずれも客観的な事実に基づく」
「荒井裕樹のとった行動が、弁護士法72条などに違反すると考えることには、合理性がある」

この訴訟は、まだ最高裁の判断が残るものの、一審と二審でこんな惨状ですから、ここから判決をひっくり返すのはまず難しいでしょう。

ここで言及した訴訟の概要
訴訟提起の日付 管轄の裁判所
2019年1月17日 東京地裁→東京高裁→最高裁
原告 被告
荒井裕樹 ユニバーサルエンターテインメント、
富士本淳、徳田一ほか、
取締役や顧問弁護士など
訴訟の内容
ユニバーサルエンターテインメントが、弁護士会に対して荒井裕樹弁護士の懲戒処分を請求したことと関連。荒井裕樹弁護士は、この懲戒請求が名誉毀損にあたるとしてこの訴訟を提起した。リンク先の訴訟(く)に該当。

そもそも、このケンカで荒井弁護士に勝ち目があったのかというと、かなり疑わしいところもあります。振り返ってみると、彼がユニバーサルエンターテインメントに1億米ドルもの成功報酬を迫ったことからして、間違いだったように映るためです。これは、成功報酬に関連して、両者が交わしていた契約書を見ていくとわかります。





「1億ドル」を請求した不可解


荒井弁護士個人とユニバーサルエンターテインメントが最初に契約を結んだのは、2012年のことでした。

当時、ユニバーサルエンターテインメントが抱えていた大きな問題は、ビジネスパートナーであり、出資先でもあった米国のウィン・リゾーツ社とのもめごと。あるきっかけからユニバーサルエンターテインメントグループの保有するウィン社の株式(=当時の時価でおよそ27億米ドル相当)が、ウィン社によって強制的に召し上げられ、その代わりに受取手形(=およそ19億米ドル相当)を交付されるという事態に直面したため、ユニバーサルエンターテイメントはこの問題に対応すべく、荒井弁護士を起用したのです。

ユニバーサルエンターテイメントとウィン・リゾーツの対立構造




もちろん、両者の契約は、契約書面が残っています。そして、この書面には両者対立の火種になった「成功報酬」の定義も、次の文面で綴られていました。

成功報酬:本件に係る各判決による勝訴金額又は和解の結果、依頼者らが相手方当事者らから受領する損害賠償金額その他の経済的利益の4%の金額(消費税別)とする
Wynn Resorts, Limitedの株式を24,549,222株を今後も保有し続けることが可能となった場合には、強制償還価格とされた78.883米ドルと、平成24年2月17日における同社の終値株価112.69米ドルの差額である33.807米ドルに同株数を乗じた金額、あるいは相手方当事者等が同株を買い取ることとなった場合については、当該買取価格から同78.883米ドルを控除した金額に同株式数を乗じた金額を、それぞれ上記経済的利益とする

契約書の文面は、当事者でないと理解するのがなかなか難しいものかもしれません。ただ、ふたつのポイントに着目すれば、本質は見えてきます。ポイントのひとつは、ユニバーサルエンターテインメントから荒井弁護士側に支払う成功報酬を「経済的利益」の4%と定めていたこと。もうひとつは、「経済的利益」を算出するにあたっては必ず一定の金額を控除する、と決めていたことです。

契約書の文面を具体的になおすと、こんな図解になります。

経済的利益の定義(荒井裕樹とユニバーサルエンターテインメントの契約書から)

「経済的利益」を算出するにあたって、控除することになっていたのは、ユニバーサルエンターテインメントがウィン株式の代わりに交付されていた受取手形に相当する金額ぶん(=約19億米ドル)です。上記の図で言うと、ピンクで塗りつぶした部分にあたります。

当時、ユニバーサルエンターテインメントは、保有していたウィン株式をウィン・リゾーツによって強制的に召し上げられたものの、代わりに交付された受取手形およそ19億米ドルぶんについては、その金銭的価値が保証された状態にありました。よってユニバーサルエンターテインメントとしては、ウィン・リゾーツと対立する/しないにかかわらず手にできるものなのだから、このぶんは「経済的利益」から差し引いて算出しよう、ということになったのでしょう。ある種、当然のことです。




ところが、実際に荒井弁護士側がユニバーサルエンターテインメントに請求した成功報酬は、冒頭でふれたように1億米ドルなのです。これは明らかに度を超えているでしょう。

現実に、ユニバーサルエンターテインメントがウィン・リゾーツとの対立を、和解という形で終えたとき、金銭的対価として手にしたものといえば、26億3200万米ドルの和解金だけです。ほかには何もありません。となれば、成功報酬が1億米ドルなんて規模にならないことは目に見えているはず。契約書に明記された控除は、いったいどこへいったのでしょう?

米ウィン・リゾーツ、ユニバーサルとの訴訟で和解 26億ドル支払い | ロイター
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それにそもそも、当初ユニバーサルエンターテインメントが目論んだシナリオ――「ウィン・リゾーツの株式を取り返す」というケースであっても、成功報酬は3300万米ドルほどにしかなりません。荒井弁護士側の請求額がこれすら軽く上回っているというのもおかしな話でしょう。

彼の請求は、どうにも無理矢理にデタラメな金額を突きつけたように映るわけで、勘ぐりのひとつも入れたくなります。荒井弁護士はこれだけの請求をしなければならないほど、何か金銭面で特殊な事情でも抱えていたのか、と。




違法性を問われかねないやり口

さて、荒井弁護士とユニバーサルエンターテインメントの契約には、もうひとつ興味深いポイントもあります。それは、あるとき彼からの要請で、「ユニバーサルエンターテインメントと荒井裕樹」という組み合わせで交わしていた契約の名義人を、荒井裕樹個人からウェル・インベストメンツ・リミテッドという、彼が代表者になっていた法人に切り替えていたことです。

2012
ウィン・リゾーツがユニバーサル社の持つ株式を受取手形に交換すると公表

当時、ユニバーサルエンターテインメントグループが保有していたウィンリゾーツ社の株式は、およそ2450万株。ひと株あたりの時価は112ドルほどだった。

2013
ユニバーサル社が荒井個人ではなくウェル・インベストメンツ・リミテッドと契約

契約書には「本件の弁護士報酬は、下記のとおりとする」との文面に続いて、ユニバーサルエンターテインメントからウェル・インベストメンツ・リミテッドに対し、月額600万円の着手金を支払うことや、例の成功報酬のことが記載されていた。

2018
ユニバーサル社とウィン社が和解

和解の結果、ユニバーサルエンターテインメントはウィン・リゾーツから26億3200万ドルを受領した。

荒井がユニバーサル社に遅延損害金が発生すると警告

ユニバーサルエンターテインメントからの支払いがなかったことから、荒井はメールで「成功報酬とは別に、遅延損害金も生じる」旨を警告。メールの文面には、「このまま支払いが遅れると、株主代表訴訟の提起の対象となりうる」といった煽り文句のようなものも入っていた。

契約の変更があったのは、2013年10月でした。荒井弁護士はこの契約変更を当時ユニバーサルエンターテインメントに申し出たとき、「近日中に香港に駐在する予定であるため」などと説明していますが、この件はずいぶん大胆な申し出だったように映ります。なぜなら、契約の名義を荒井裕樹個人からウェル・インベストメンツ・リミテッドという法人に変更することは、俗に「非弁行為」と呼ばれる、法律から逸脱した行為に該当しかねないと考えられるためです。




日本では、医療の分野で医師免許のないものが医療行為に及ぶことを禁じているように、法律の分野でも、弁護士以外の者が法律事務を業務にしてはならない、と定めています。参考までに、このあたりのことについて明文化した弁護士法72条をここに挙げましょう。

e-Gov法令検索から

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。

引用元:弁護士法

荒井弁護士のケースで問題と考えられるのは、言うまでもなくウェル・インベストメンツ・リミテッドが契約の相手方になった点です。多くの人にとって聞き慣れない名前のこの会社は、英国領ヴァージン諸島に籍を置く、ペーパーカンパニーのようなものでしかなかった――つまり、弁護士法人ではなかったのです。

英国領ヴァージン諸島といえば、税負担をおさえたい富裕層が、租税回避の一環として会社を設ける場所として知られています。荒井弁護士がここにウェル・インベストメンツ・リミテッドなる会社を設立したのも、ご多分にもれず似たような目的からのことだったと考えられますが、結果から見れば失敗だったのかもしれません。冒頭でもふれたように、彼はこののち、この件に関連して、裁判官から法律違反の可能性を指摘されることになってしまったのですから。




これらの話は一端に過ぎない

この先どこかで実際に、荒井弁護士に法律違反があったと見なされるのか、それともそこまでいかないのか、このあたりについてはまだわかりません。しかし、多くの人にとっては、彼ほど名のしれた人物が、いまのような状況にあることからして、意外性のある事実だったのではないでしょうか。

……もっとも、ここで驚くのはまだ早いかもしれません。なぜなら、世間に知られてこなかった話は、ここに挙げたものですべてというわけでもないためです。

(つづく)

 


荒井裕樹著 世界基準の「論理力」 武器としてのロジカルシンキング!

【「青色LED訴訟」請負人の落日】シリーズ一覧

  1. 気鋭の弁護士 荒井裕樹の成れの果て(※当記事)
  2. 荒井裕樹弁護士が問題人物に肩入れする不思議

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