ユニバーサルエンターテインメントに残る経営陣と、同社から追放された岡田和生氏。両者が対立する構図のなかでひときわ異彩を放つのは、弁護士・荒井裕樹の立ち位置です。彼がこれまでにとってきた行動を見ていくと、そのおかしさは顕著に浮き彫りになります。

画像はBloombergより
「論理力」をウリにしてきた弁護士が「バカのフリ」
荒井裕樹氏といえば、ひと昔前なら、弁護士としてのめざましい活躍や成果がマスコミなどで取り上げられてきた存在でした。しかし、その彼がここ数年、「不正に関与したと見られる人物を手放しで擁護している」ことは、ご存知でしょうか?
まずは次の文面をご覧ください。これは、ユニバーサルエンターテインメントグループから不正な形で流出した1億3500万香港ドル(=当時のレートでおよそ20億円)に関して、荒井弁護士とその関係者たちが連名で見解をつづったものです。彼らは、ある訴訟のなかでこういった内容の書面を提出して、「ユニバーサルエンターテインメントグループから出ていった1億3500万香港ドルは、騒ぎ立てるような話ではない」とばかりに主張していました。
荒井裕樹弁護士たちが主張した内容の要約
- 1億3500万香港ドルの資金は、送金先のゴールドラック社がカジノ関連事業に投資している
- この投資は、資金に相当するだけの価値がある
- 投資という性質上、ただちに元本を回収できるものではないが、将来にわたってキャッシュフローが見込める
- ゴールドラック社自体も1億3500万香港ドルに相当する資産を保有している
- 加えて、1億3500万香港ドルにはゴールドラック社の関係者・李堅の保証がついている
- だから、ユニバーサルエンターテインメントは仮にゴールドラック社から資金を回収できなかったとしても、李堅から回収が見込める
先に断っておくと、これらの見解は、まやかしだと言えます。何しろ彼らの見解は、1億3500万香港ドルの受領者になった李堅氏が別途裁判所に提出していた書面をまるまる引用したようなものにすぎないのですから。当の李堅氏といえば、自らの言いぶんをただ書面に書き連ねただけです。「1億3500万香港ドルの資金は、カジノ関連事業に投資している」と主張しながら、契約書の1枚も提出していません。言い換えれば、裏付けとして十分な証拠を何ひとつ提示していないのです。
どうにもおかしさを指摘したくなるのは、「荒井弁護士ともあろう人間が、なぜか十分な裏付けをとらないまま、粗末な主張を鵜呑みにしている」ことです。彼は、かつて自らの論理力をウリに弁護士として活動していたのに、この1億3500万香港ドルと李堅氏のことについては、ずいぶんと甘い判断を下しているように見えます。
それに、李堅氏といえば、自分が代表取締役を務めていたSJI社で架空取引を繰り返し、会社の資金を私事に流用していた、いわつくつきの人物であることも見逃せません。
李堅氏の架空取引については、下記の記事で少しふれています。
岡田和生氏による不正行為については、ユニバーサルエンターテインメント(UE社)と利害関係のない弁護士3名からなる特別調査委員会が、調査結果を出しています。調査結果が公になったのは2017年8月30日の ... ユニバーサルエンターテインメント(UE社)の特別調査委員会が指摘した問題に登場する李堅氏と、岡田和生氏。両者の関係は、2014年11月にオカダホールディングス(OHL)から李堅氏宛に1億3500万香港 ...
【導入2】岡田和生氏に疑惑 会社に断りなく多額の送金を指示か
ある事件の被告人と、岡田和生氏をつなぐ人脈
そしてまた、この架空取引を調査した報告書のなかでは、「上場企業の代表取締役職にありながら、借金で首が回らない」、そんな李堅氏の実態もつづられていました。
株式会社SJI 第三者委員会の調査報告書から
※掲載した文面は調査報告書の内容を当サイトが要約したもの
- 李氏は、現時点でも複数の事業会社や知人などから少なくとも数十億円以上の負債を負っている
- 借換えなどの資金繰りにより、利息の支払いを継続しているだけで、元本の返済までは困難な状況
- 他方 、特段価値のある積極財産を保有しているとも認め難いことから、債務超過の状況にあると認められた
冷静に考えれば、こんな人物がユニバーサルエンターテインメントグループから出ていった1億3500万香港ドルの保証人になっているなら、保証はあってないようなものです。むしろ、資金の回収は困難な道のりになる、と見込むほうが現実的でしょう。それなのに、同じシチュエーションを見て「ゴールドラック社から資金を回収できなかったとしても、李堅から回収が見込める」と評価する弁護士がいるというのは、奇妙というほかありません。どう考えても無理があります。
李堅氏の架空取引が発覚した当時、荒井弁護士はSJIの子会社・SJI香港の役員に就いていました。SJIが公表した有価証券報告書の93ページにも、「子会社の役員である荒井 裕樹」とたしかに明記されています。ですから、架空取引の件とその調査報告書の内容を、彼が知らないはずはありません。
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株式会社SJI 第26期有価証券報告書
続きを見る
いったい、荒井弁護士はどういうつもりなのか? ここまで見てきたところで思い浮かぶのは、こんな疑問でしょう。彼は、ユニバーサルエンターテインメントグループから出ていった1億3500万香港ドルの件について、ロクな証拠がないのに「問題ないもの」と言い張ろうとしている。これはなぜなのか、と。
バカを演じる裏事情
まっさきに思いつくのは、契約の話です。過去の報道では、荒井弁護士と岡田和生氏の間に「成功報酬を約束した取り決めがある」と話題になりました。この話によれば、なんでも岡田和生氏の復権が実現した場合、荒井弁護士は数十億円の報酬を受け取れるようですから、これが彼にとってニンジンになっている可能性はあるでしょう。
FACTA 2019年1月号から
岡田氏は日本にたびたび帰国、永田町の議員会館にある親しい自民党国会議員の部屋を訪ねるなどしている。そんな中、荒井氏との密談後と思しき光景が目撃されたというわけだ。関係者によると、両氏の間では経営復帰が実現した暁に数十億円の成功報酬を支払う旨の契約話が動いていたことも確認されているという。
引用元:カジノ王・岡田が「肉弾突撃」
ただ、こうした見方では、気になることもあります。このように荒井弁護士の行動を「岡田和生氏のための火消し」「目当ては成功報酬」と仮定した場合、根本のところで話を見誤っている可能性がありうるのです。
1億3500万香港ドルの不正と、荒井弁護士をつなぐ「証言」
この件に関して気になったのは、過去に岡田和生氏が裁判所に提出した書面のなかに、荒井弁護士の関与をうかがわせる記述があったことです。該当するくだりでは、氏が1億3500万香港ドルの件について協議していた当時、この処理方法や手続きについて荒井弁護士に相談するよう部下に指示したことになっています。
裁判所に提出されていた書面から
※すべて原文ママ
※「被告」とは、岡田和生氏のこと。
※「根岸」とは、当時岡田和生氏の部下だった人物のこと。
※「本事案」とは、1億3500万香港ドルの件を指す。被告は同席していた訴外根岸氏に対し、李堅と打ち合わせをして以降の本事案の協議及び可否の判断を含む本事案の処理ならびに手続きについては荒井氏と相談の上取り計らうよう指示し一任した(但し、訴外根岸氏が荒井氏に実際に相談したかどうかは被告には分からない。)
引用元:2018年4月19日付けで岡田和生氏が東京地裁に提出した準備書面
もしこれが事実なら、荒井弁護士の立場は「岡田和生会長復権を実現するための協力者」というより、「1億3500万香港ドルの当事者」です。問題の資金がどこにどう流れて何に使われたか、本当のことを把握していながら、あえて先に取り上げたような「バカのフリ」をしている可能性すらあるのではないでしょうか? この件で何かしらの見返りを受けているからこそ、火消しに徹している――こんな構図だって考えられます。
過去のやりとりは荒井弁護士の関与を暗示
これまでさまざまな資料にあたってきた経験から言えば、こうした見解は当たらずとも遠からずのものだと考えています。なぜなら、関係者間にそれだけのつながりがあったことは過去のやりとりから確認できるためです。
たとえば岡田和生氏は当時、日頃からよく荒井弁護士に相談を持ちかけていました。相談内容はビジネス関連を中心にさまざまであり、下記に挙げるメールのやりとりはそんななかの一例です。
2014年10月10~11日のメールから
※すべて原文ママ件名:(無題)
ユニバーサルEのTOBを検討したい。岡田会長様この点、今月下旬に、東京又は香港で、中国信託銀行関係者及びそれ以外の香港投資家との面談を調整中です。一度会ってみて信頼可能であって、先方が積極的に検討する姿勢であればご紹介させていただきたいと思っております。
荒井拝
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ありがとうございます。
こうした実態をふまえれば、岡田和生氏が1億3500万香港ドルの件について荒井弁護士に相談を持ちかけていたとしても、何ら不思議ではないでしょう。ふたりにしてみれば、きっとごくありふれた日常だったと考えられます。
「岡田・李・荒井」の結びつき
また同様に印象的だったのは、「岡田・李・荒井」という3人のなかで、荒井弁護士が岡田和生氏と李堅氏の間を常に取り持つような立場にあったことです。具体的には、彼が岡田・李の両者を2013年に引き合わせてから、次のような話を取りまとめたり、取りまとめようとしていたことがわかっています。
【A】荒井弁護士の紹介でSJI香港が岡田和生氏から資金を調達
- 荒井弁護士の紹介で、岡田和生氏が李堅氏の会社・SJI香港に18億円を融資することで合意した
- 両者は2013年2月28日付けで融資契約を締結
- 同日、オカダホールディングスの口座からSJI香港の口座に18億円が渡った
- 荒井弁護士は、これらの手続きがはじまった当初から、2015年7月に「最終債務弁済合意書」を交わすまで、ずっと融資の面倒を見ていた
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ある事件の被告人と、岡田和生氏をつなぐ人脈
ユニバーサルエンターテインメント(UE社)の特別調査委員会が指摘した問題に登場する李堅氏と、岡田和生氏。両者の関係は、2014年11月にオカダホールディングス(OHL)から李堅氏宛に1億3500万香港 ...
この18億円の融資については、こちらの記事でもう少し詳しくふれています。
【B】仕事の担い手として李堅氏を提案、受託に結びつける
- 仕事の担い手を探していた岡田和生氏に、荒井弁護士が李堅氏と李堅氏の会社・SJIを提案した
- 荒井弁護士から連絡を受けた李堅氏は、岡田和生氏が担い手を探していた仕事のうち、「UEテックの再建」を引き受けると回答
- 荒井弁護士は李堅氏の回答をメールで岡田和生氏に伝えた
- 下記はその原文
2014年4月5日付けのメールから
※すべて原文ママ件名:SJIのシステム開発の件
岡田会長様いつも大変お世話になっております。
先日お電話にてお話のございました、SJIに対するシステム開発等の委託の件につきまして、改めてSJIの李社長に確認したところ、次のような回答を得ました。1)UEテック
UEテックの再建は仕事させて頂きたいと思います。
2)カジノホテルのシステム開発
やりたいのは山々ですが、後発の上、場所がPhilippinesということもあり、実際のところ困難じゃないかと思っています。結論=UEテックのみ、お手伝いをさせて頂きたいと思います。
なお、UEテックの方は、4月中に再建案を提示できるよう作業をさせていただきたいとのことでした。
従いまして、カジノホテルのシステム開発委託の件につきましては、上記のとおりの状況となっております。
取り急ぎご報告申し上げます。
なお、私は日曜日に香港に入る予定としております。会長のお時間がお許しになるようでしたら、月曜日のどこかのお時間でご報告その他今後の方針等につきましてお話いただく機会を頂戴できれば幸甚です。荒井拝
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分かりました、そのとうりで進めます。
【C】SJI傘下にあるサイノコムの買収を岡田和生氏にプッシュ
- 2014年半ばごろ、オカダホールディングスの香港上場を模索しはじめていた岡田和生氏に、荒井弁護士が「裏口上場」を持ちかけた
- ここでいう裏口上場とは、すでに香港の株式市場に上場していたサイノコムを用いたスキームのこと
- 荒井弁護士は、サイノコムをオカダホールディングスが買収することで、手っ取り早く上場を実現できると伝えていた
- 当時サイノコム社は、李堅氏が代表を務めていたSJI社の傘下にあった
- 下記のメールにおいて「SJIHK」「貸付金額+遅延利息」云々の言及があるのは、上記【A】で取り上げた融資の返済が滞っていたためと考えられる
2014年7月11~12日のメールから
※すべて原文ママ件名:サイノコム買収の可能性について
岡田会長様いつも大変お世話になっております。
先日来のお話のございます、サイノコム買収の可能性につきまして、現状をご報告申し上げます。
基本的には、現在、SJIにおいて7月末のクロージングを目前にしておりますが、7月末に26億円、9月末に30億円の合計55億円で約57%を売却予定となっております。
この点、OKADA HOLDINGSからSJIHKへの貸付金額+遅延利息は、7月末現在で約21億5000万円となる見込みですので、万が一、サイノコムを買収される場合には、上記買い手と全く同一条件だとした場合には、追加で3億5000万円の買収資金を支払うことにより、まず第一段階の買収は可能という状況にございます。
但し、各種デューデリジェンスやスキームの検討等に時間的猶予がない為、万が一、サイノコムを買収される場合には、来週中を目途に、SJIと基本合意書を締結する必要があろうかと存じます。幸い、来週水曜~金曜のどこかで、SJIの李社長とは東京で面談する予定となっておりましたので、もし、サイノコムの買収をご決断される場合には、その場でかなり具体的なお話をさせていただき、早急に具体的条件・手続を詰める必要があろうかと存じますので、その旨ご指示いただければと思います。荒井拝
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あと30億をだすことで過半数を獲得するはなしでした。それが問題無いとの話で有るならば、今回のはなしはまとめて見るのも良いかも知れません。という話ですが、さいのこむが問題無い会社であることが重要です。
ここに並べた事例を見るとわかるように、荒井弁護士はまるで2人のコーディネーターです。それにもかかわらず、1億3500万香港ドルの件に限って彼が把握していないなんて、なかなか考えにくいとは思いませんか?
奇しくも2015年には、問題の1億3500万香港ドルが李堅氏に渡った(下記のアイコン①を参照)あと、ほどなくして荒井弁護士が前年に就任したばかりだったユニバーサルエンターテイメントの社外監査役を辞任する(下記のアイコン②を参照)、なんてこともありました。一連の出来事を深読みすると、「表沙汰になるとまずいことに関わったがために、あらかじめ監査役を辞任しておいた」ように見えなくもありません。
果たして、これらは「たまたまつじつまが合っているように見えるだけ」の話なのかどうなのか。この記事をご覧になってきたあなたの目には、どう映ります?
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