なぜ、岡田和生グループは、オカダマニラを力ずくで奪い取るという凶行に及んだのか? その動機を探る上では、事件の実行役になったフィリピン人のひとり、Antonio Cojuangco(=アントニオ・コアンコ)氏の過去について知ることも、参考材料になります。現地では「Tonyboy」の通称で知られる財界人の彼が、そもそもどのようにして岡田和生氏と関わるようになったのか――この点を振り返ることで見えてくるものに、ご注目ください。
すべてのはじまりはフィリピンの「土地問題」
アントニオ・コアンコ氏と岡田和生氏を語る上で、何はなくともはずせないのが、現地のフィリピンで浮上した「土地問題」です。そもそものきっかけになったこの問題がなければ、ふたりの出会いもありえませんでした。
土地問題は、オカダマニラ――当時のプロジェクト名でいえば、「マニラベイリゾーツ」の事業用地が、まだほとんど更地だった2012年に浮上したものです。
きっかけは、岡田和生氏率いるフィリピン事業部チームのやり方が、現地で問題視されたこと。フィリピンの法律では元来、「外国人および外国法人による土地の所有は認めない」「外国人および外国法人がフィリピンで会社を持つ場合は所有権の40%まで」というルールになっていたのにもかかわらず、このルールから逸脱したような形で、フィリピン事業部チームが事業用地を確保しているとわかったのです。
2012年当時の土地所有構造
- 焦点になったのは、フィリピン事業のために確保していた土地の所有権構造
- 44ヘクタールの土地はすべてEAGLE I社が保有する
- そして当時は同社の株式40%をユニバーサルエンターテインメントの完全子会社・Aruze USA社が保有していた
- これだけだったら、とくに問題はない
- 問題は、Aruze USAがEAGLE II社の株式も同時に40%保有していたこと
- EAGLE IIはEAGLE Iの株式60%を保有していたため、Aruze USAは実質的にEAGLE Iの株式を64%保有した格好(=40%+60%×40%)になってしまっていた
- これが「外国人および外国法人がフィリピンで会社を持つ場合は所有権の40%まで」というルールから逸脱していると見なされた理由
- また、当時はEAGLE IIの株式60%を所有していたPlatinum Gaming & Entertainment社も、自社の株式80%ぶんを誰が持っているのかはっきりとしないという点で問題になった
Aruze USAのEAGLE I所有権割合(2012年当時) | ||
直接所有 | 間接所有 | 実質所有割合 (左記の合計) |
40% | 24% | 64% |
よそ者がルールも守らずにビジネスをはじめようとしている。現地のそんな批判は、またたくまに拡大し、その結果、岡田和生氏率いるフィリピン事業部チームは、事業用地の所有権見直しに着手せざるをえなくなります。そしてここから、土地の所有構造を適正化するため、フィリピン事業部チームによって進められたのが、土地保有に関連する会社の株式を引き受けてくれる提携先の模索――つまり、パートナー探しでした。
「PAGCOR」とは?
この記事で何度も登場する「PAGCOR」とは、1976年にフィリピンで設立された「Philippines Amusement and Gaming Corporation(=フィリピン娯楽賭博公社)」の通称。ここでは、「いわゆるカジノ、ゲーミング関連ビジネスのルールを取り仕切る規制当局を指すもの」と理解してもらってかまわない。
「合意に至るも破談」が相次ぐ
土地問題が浮上してからおよそ1年足らずの2012年12月に、フィリピン事業部チームはRobinson社との合意にこぎつけます。しかし、これで一件落着とはなりませんでした。両者の合意は、まもなく決裂したのです。
そしてここからは、土地問題をめぐり、かなりの紆余曲折が続きました。パートナー候補を見つけては破談する――そんな繰り返しです。
First Paramount Holdings 888の「怪」
ここでパートナー候補として現れたFirst Paramount Holdings 888社については、興味深いことが発覚している。なんと、同社に出資していた人間が後日、内国歳入庁(=日本の国税庁に相当)から脱税の指摘を受けることになったのだ。この事実は、後述するように重要な意味を持つと考えられる。
ふってわいたような結末と、そこに姿を見せたTonyboy
難航に難航を重ねたパートナー探し。それでも、やがて結末はやってきました。
2015年の5月に入ってからしばらくして、ユニバーサルエンターテインメントが土地問題に関わる2社――EAGLE I社とEAGLE II社を連結対象から除外すると発表し、このなかでEAGLE IIの株式はすでに売却済みだと明らかにしたのです。そして、この売却先こそ、のちに岡田和生グループのひとりとしてオカダマニラの強奪を実行する、通称「Tonyboy」ことアントニオ・コアンコ氏でした。
当時、ユニバーサルエンターテインメントが公にした文書によれば、このときの取引内容は、次のようになっています。
アントニオ・コアンコ氏との取引内容
- ユニバーサルエンターテインメントグループが保有するEAGLE IIの株式を、アントニオ・コアンコ氏率いるALL SEASONS HOTELS & RESORTS社に譲渡
- 譲渡する株式は、EAGLE IIにおいて発行済の株式40%に相当
- 譲渡価格は1億3000万フィリピンペソ
要約元:子会社の異動に関するお知らせ
続いて、この取引を反映したEAGLE IとEAGLE IIの所有権構造を図解にすると、こんな具合です。
最終的に落ち着いた土地の所有構造

※ここでは簡略化して「ユニバーサルエンターテインメントグループ」としていますが、実際にEAGLE Iの株式40%を保有するのはグループ内の子会社です
- 土地を保有するEAGLE I社の株式60%はフィリピン人がおさえた格好になった
- 「外国人および外国法人がフィリピンで会社を持つ場合は所有権の40%まで」というルールは守れている
ご覧のように、この取引でユニバーサルエンターテインメントグループは、「外国人および外国法人が会社を持つ場合は所有権の40%まで」とするフィリピンの法律をクリアしたことがわかります。
こうしてアントニオ・コアンコ氏の登場により、土地問題は収束をむかえました。そしてこののち、オカダマニラも無事に開業をむかえます。
ただ、結果よければすべてよし、と言えるかといえば、そこはどうでしょう?