訴訟と捜査の現場から

「岡田和生の復帰を認めた裁判所命令」が意味するところ

去る2022年5月11日、インターネット上にインパクトのある話が出回りました。なんと、ユニバーサルエンターテインメントグループから追放された岡田和生氏に手を差し伸べる、そんな命令がフィリピンの最高裁判所から出たようなのです。これは、いままでの情勢からすれば、まさしく急展開。いったい、何が起きているというのでしょう?

「岡田和生CEO」返り咲く?

複数の海外メディアが一斉に報じたところによれば、フィリピンの最高裁判所から冒頭の命令が出たのは2022年4月27日付け。その内容は、ユニバーサルエンターテインメントのグループ会社・Tiger Resort Leisure and Entertainment(TRLEI)に対して、「同社のCEOだった岡田和生が2017年に解任されるより前の状態」に戻すよう命じるようなものになっています。

2022年5月11日の時点では、最高裁判所のウェブサイトにアクセスしても実際の書面は確認できませんでしたが、海外メディアのひとつ、inside asian gamingは当該書面の一部と思しきものを、下記のように取り上げました。

inside asian gamingから

ISSUE a STATUS QUO ANTE ORDER, effective immediately, and continuing until further orders from this Court, and ORDER respondents, their agents, representatives, or persons acting in their place or stead, to MAINTAIN THE STATUS QUO prevailing prior to petitioner’s removal as stockholder, director, chairman, and CEO of Tiger Resort Leisure and Entertainment, Inc. (TRLEI) in 2017.

意訳:即時発効命令として、当裁判所から追加の命令があるまで継続する「原状維持命令」を発する。この命令では、被申立人(=TRLEI陣営のこと)とその関係者たちに対して、申立人(=岡田和生氏のこと)が2017年にTiger Resort Leisure and Entertainment, Inc(TRLEI)の株主、取締役、会長、CEOから解任される以前の状態を維持するよう命ずる。

引用元:Japan’s pachinko tycoon, Kazuo Okada making a comeback in Manila?

TRLEIといえば、フィリピンでユニバーサルエンターテインメントグループのIRリゾート・オカダマニラを運営する会社です。よって、このたびの命令を要約すれば、岡田和生氏がオカダマニラのトップに返り咲くことを認める、といった意味合いになるのでしょう。




おそらくこのたびの命令は、ユニバーサルエンターテインメントや岡田和生氏の動向を把握してきた多くの人にとって、「青天の霹靂」であり、「急転直下」という文言を思い浮かべるような出来事だと思います。これまでは、岡田和生氏の復帰なんてまずありえない、というのが大方の見方だったのですから。

ただ、実際に岡田和生氏の復帰が実現するかといえば、話はそう単純ではない、と考えられます。

唐突すぎる結論

まずひとつ、指摘したいのは、このたびの命令が異例のスピードで出ていることです。ASIA GAMING BRIEFの記事にはこうあります。

ASIA GAMING BRIEFから

According to the latest court ruling, which was issued on April 27 and obtained by AGB, Okada filed an “extremely urgent omnibus motion,” on April 6th.

意訳:4月27日に出た裁定によると、岡田和生氏は4月6日に「極めて緊急の包括的な申し立て」をおこなっていた。

引用元:Supreme Court orders Kazuo Okada to be restored as Tiger Resorts CEO

重要な点にふれておくと、現地の裁判所はこれまでこの訴訟について、1審と2審いずれでも岡田和生氏の請求を棄却していました。「岡田和生はTRLEIのCEOから解任されたことを無効にしたいようだが、それを認める合理的根拠はありませんよ」と。

日本を例に挙げれば、こういった状況で最高裁判所がこれまでの決定を再考しようとする場合、まず間違いなく口頭弁論の機会を設けます。原告と被告の双方に期日を知らせて、そののち口頭弁論を開き、そのあとで最高裁判所としての結論を出すわけです。

しかし、今回のケースでは引用元にあるように、岡田和生氏陣営による申し立てがあってから、たった20日ほどでこれまでの決定を根本からくつがえすような命令が出た格好になっており、1回でも審議が実施されたようにはとても見えません。

岡田和生氏に関連したフィリピンの訴訟では、過去にも妙なことがありました。今回もまた、世間の預かり知らぬところで何か特別なことがあったのだとしても不思議ではないでしょう。

取締役の任命権はあくまで香港法人にあるという現実

また、もうひとつ指摘したいのは、この命令の実効性にはそもそも疑問符がつくことです。




このたび出た命令の対象になっているTRLEIは、フィリピンの法人であり、その管轄がフィリピンの裁判所にあることは間違いありません。

しかし、ユニバーサルエンターテインメントグループの構成からいえば、TRLEIの取締役会メンバーを指名する権利は、その親会社にあたる香港法人・Tiger Resort Asia(TRA)にあり、そのTRAに対して実権を持つのは日本の法人・ユニバーサルエンターテインメントです。

ユニバーサルエンターテインメントグループの会社組織図01

となると、仮に今回の命令がフィリピンにおける司法の最終決定になるのなら、それは「取締役会のメンバーを指名する権利はその会社の株主にある」という原則に反するだけでなく、フィリピンの裁判所が香港や日本の権利を無視する結論を下した、ということにもなります。

果たして、これでもこのたびの命令は実効性を持つものだと言えるでしょうか?

ユニバーサルエンターテインメントグループの声明

この先、どういった展開になって、どういった結論に落ち着くのか、そこはまだ定かではありません。ただそれでも、このたびの命令が文字面ほどのインパクトをもたらすものでないことは、間違いないはずです。

これらは、香港や日本の権利が絡む以上、国家間の問題に発展するリスクをはらむ話でもあります。おそらくは、フィリピンという国としても、慎重に扱わざるをえないものになるではないでしょうか。

なお、当のユニバーサルエンターテインメントグループは、裁判所に対してこのたびの命令を取り消すよう求める「再考のための申し立て」をすでに済ませているそうです。終わりに、このたびの命令に関して、ユニバーサルエンターテインメントグルーブからマスコミ向けに公表した声明文も掲載しておきます。

Okada Manila operator files court motion against reinstatement of Kazuo Okada to company’s board – IAG
Okada Manila operator files court motion against reinstatement of Kazuo Okada to company’s board

Tiger Resort, Leisure and Entertainment, Inc. (TRLEI), the operating entity of Philippines integrate ...

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inside asian gamesが報じたTRLEIの主な声明

※すべて意訳

  • 我々は、TRLEIが現状維持命令を撤回するための強力な法的根拠を持っていると信じている
  • 2017年に岡田和生氏をTRLEIの役職などから解任したことは、有効かつ合法的なものでした
  • 解任は、親会社の指示により実行したもの
  • 岡田氏の解任に関する問題は、日本国内でしか判断できないことを強調したい
  • 実際のところ、日本の最高裁判所は2020年に岡田氏の解任の有効性・適法性を認める最終判決を出しています(※参考記事
  • フィリピンの最高裁判所が出した命令は、暫定的な措置であり、TRLEIの所有構造に変更を与えるものではなく、当社の業務に影響を与えるものでもありません
  • 我々は、フィリピンの最高裁判所がいずれ我々の立場の正しさを理解し、我々に有利な判決を下すと確信しています




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