2022年2月現在、日本の法廷では、ユニバーサルエンターテインメントの代表取締役社長・富士本淳氏が同社の株主1名から提起された訴訟で、ある疑惑の追及を受ける立場にあります。同社といえば、これまでさんざんお伝えしてきたように、創業者の岡田和生氏によるさまざまな不正が明るみになってきたわけですから、続けて現在の社長まで似たような問題を抱えているなら由々しき事態でしょう。ただ、実際のところこの話がそれほどシリアスなものかといえば、どうもそのようには見えません。むしろはた目には、この訴訟に打って出た原告株主がとってきた行動のほうこそ、興味深いもののように映ります。
この記事のあらすじ
- ユニバーサルエンターテインメントの代表取締役社長・富士本淳氏が、同社の株主から提訴されることになった経緯と、その舞台裏についてつづる
「旗振りができるのは富士本社長をおいて他にいない」
富士本淳社長を提訴した原告株主の行動をたどってみたとき、注目に値するのはその変節ぶりにあります。なにしろこの株主は、いまでこそ富士本淳社長に対して牙をむいた立場にあるものの、かつては株主のほうから信書を送り、そのなかで「(ユニバーサルエンターテインメントは)上場会社に相応しい会社に変わるときが来ている」「その旗振りができるのは富士本社長において他にいらっしゃらない」と富士本淳社長本人に伝えていたのですから。
この信書については、富士本淳社長から株主宛に返信があったこともふくめて、報道機関に当時取り上げられました。ひょっとしたら、過去に下記のような記事を見たと記憶している方もいらっしゃるかもしれません。
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ユニバーサル「岡田会長は経営者として不適」 富士本社長が株主への書簡で岡田会長を糾弾
ユニバーサルエンターテインメント <6425.T>の富士本淳社長が、社内の資金に関し不正行為を行った疑いが浮上している同社の岡田和生会長について、「公開企業の経営者として不適格者と考えている」と株主か ...
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株主が信書を送ったのは2017年6月のことでした。これは、ユニバーサルエンターテインメントの創業者・岡田和生氏に不正行為があったとして、同氏が社内から追放されてまもないタイミングです。
一転して富士本淳社長を批判 その狙いは――
ところがこの株主はここからおよそ1年後、驚くような行動に出ます。なんと、今度は岡田和生氏の長男にあたる岡田知裕氏に信書を送ったのです。そして、この信書のなかでは富士本淳社長をこんな風に糾弾しています。
1年前には富士本淳社長の手腕に期待する言葉をかけておきながらこうした行動に出るのはどうにも支離滅裂に見えますが、当の株主からすると、これは富士本淳社長から色よい返答が得られず、剛を煮やした結果のようです。知裕氏に宛てた信書の後半には、こんな言葉がつづられています。
信書の原文
我々は、岡田様こそ、王に値する方とお見受けしております。帝国は帝王によって統べられるべきであり、忘恩の輩が分相応な施政をなすべきではありません。富士本社長は、竹中半兵衛の稲葉山城の逸話のように、城を創業者に返すべきではないのでしょうか。
つまるところ狙いは、自分の望むような経営体制への刷新にある、というわけです。続く文面では、知裕氏にこんな提案までしはじめます。
信書の原文
私たちは、岡田様にであれば力を貸したいと思っており、貴方様が経営されるにあたり頼りにできる第三者をお引き合わせすることも可能だと思っております。
岡田知裕氏といえば、岡田和生氏による問題が発覚してからは父親に代わってオカダホールディングス(※ユニバーサルエンターテインメントの親会社に相当)の筆頭株主を務めている立場です。こうした関係で、知裕氏にはユニバーサルエンターテインメントに対して事実上の人事権がありますから、株主の誘い文句はある種、合理的なアプローチと言えるでしょう。言うなれば、これはユニバーサルエンターテインメントの経営に関与するための最短コースかもしれません。……もっとも、知裕氏がどこの馬の骨ともわからない連中になびくほど軽い人間かといえば、とてもそうは思いませんが。現に知裕氏は、この信書に一切返答をしていません。
原告株主個人の保有株数はいかほど?
岡田知裕氏に対して「頼りにできる第三者を紹介できる」と提案して、ユニバーサルエンターテインメントの経営に介入することをほのめかした原告株主個人が同社の株式をどれほど保有しているかといえば、200株だそう(※数字はユニバーサルエンターテインメントが訴訟のなかで報告)。これは、同社が発行する株式総数の0.001%にも満たない。原告株主は、保有株式数と比べてずいぶんと大胆な提案をしているようにも見える。