ユニバーサルエンターテインメント(UE社)が岡田和生氏を相手取って提起していた訴訟のうち、東京地裁で係争中の案件は佳境に入ってきたようです。去る2019年5月には岡田和生氏本人が出廷し、尋問の手続きを済ませました。裁判の状況を整理するにはよい頃合いでしょうから、ここで論戦の実態をご覧に入れましょう。じつにさまざまなことが明らかになっています。
「不正行為3件」に決着をつける損害賠償請求訴訟
ここで取り上げる訴訟は、ユニバーサルエンターテインメントから岡田和生氏に対して提起していた損害賠償請求訴訟です。
損害賠償請求訴訟の概要 |
訴訟提起の日付 | 管轄の裁判所 |
2017年11月27日 | 東京地方裁判所 |
原告 | 被告 |
ユニバーサルエンターテインメント | 岡田和生 |
訴訟の内容 | |
原告・ユニバーサルエンターテインメントは、社内調査で発覚した不正行為3件の原因が、いずれも岡田和生氏にあるとして、損害(※不正の調査にかかった費用)を賠償するよう求めている。リンク先の訴訟(あ)に該当。 |
この訴訟のなかで会社サイドは、調査の結果発覚した不正行為3件の原因が岡田和生氏の任務懈怠(=取締役としての任務をおこたること)にあるとして、氏に責任を取るよう求めてきました。
不正行為3件の概要
【A】
【B】
【C】
これらの大まかな経緯については、こちらの記事でつづっています。
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【導入2】岡田和生氏に疑惑 会社に断りなく多額の送金を指示か
岡田和生氏による不正行為については、ユニバーサルエンターテインメント(UE社)と利害関係のない弁護士3名からなる特別調査委員会が、調査結果を出しています。調査結果が公になったのは2017年8月30日の ...
【A】【B】【C】の事案がいつ、どんな順序で進められていたについては、こちらの記事にまとめています。
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時系列で見る岡田和生氏の不正と手口
岡田和生氏が繰り返してきた不正行為を、時系列に並べて整理しました。 こうやって一覧すると、いかに氏がたびたびユニバーサルエンターテインメントグループから自分自身に、あるいは岡田家のプライベートカンパニ ...
念のためおさらいしておくと、訴訟で主要な問題になっている「不正行為3件」は、一連の経営騒動の発端になったものです。そして、これらについて当の岡田和生氏は、自身に問題がなかった旨をマスコミの取材などでずっと主張してきたのでした。
毎日新聞から
岡田氏はこの日の記者会見で、3件の不正とも、自分は詳細を知らず、内容を把握していないと説明。側近の前取締役や、別の会社幹部が行ったことだとして、「報告書には、私が利得を得たように書かれているが、私は一切関与していない」と全面否定した。
もっともな主張で疑惑に反論……だがしかし
岡田和生氏の主張については、訴訟においても特段変わりありません。東京地裁に提出された陳述書を読むと、氏は自身の所有資産や収入の大きさにふれた上で、こう弁明しています。
岡田和生氏の陳述書から
全ての案件につき私が自らの利益を図ったと指摘されていますが、そういう事実はありませんし、私にはそのような個別の案件で自らの利益を図る動機も必要性もありません。
つまり、自分は実質的にユニバーサルエンターテインメントの大株主なのであり、そこから利益を享受する立場でもあるのだから、会社にとって損失になるようなことをするはずがない、というわけです。
……じつにもっともらしいロジックではあります。ただし、ロジックは立派でも、それが信用に値するかどうかはまた別の問題でしょう。事実、会社サイドから提出された証拠資料の数々を確認していくと、氏の主張は大きく揺らぐように思えてなりません。3件の事案それぞれの概要にふれながら、順に見ていきましょう。
【A】
TRAから無断で1億3500万香港ドルを貸し付けた件
この件の概要とポイント
- そもそものはじまりはオカダホールディングス(OHL)から李堅氏へ1億3500万香港ドル(=日本円にして20億円相当)を貸し付けたこと(図中1参照)
- この貸し付けは李堅氏を通じて「ジャンケットに投資する」という名目になっていた
- ここで貸し付けた資金をオカダホールディングスが回収するため、TRAから李堅氏に1億3500万香港ドルを貸し付けさせたと見られている(図中2~3参照)
- 本来、TRAからこれほどの金額を貸し付ける場合、親会社であるユニバーサルエンターテインメントの取締役会で承認を得る必要があった
- オカダホールディングスが資金を回収する目的でTRAから資金を流出させたとなれば、岡田和生氏は特別背任の罪に問われることにもなる
【A】の事案では、岡田和生氏が一連の貸付取引に関して「そもそも知りませんでした」と主張して、会社サイドからの追及をかわそうとしています。TRAから李堅氏に貸し付けていたことはおろか、オカダホールディングスが李堅氏に貸し付けをしていたことすら知らなかった、と。
この問題を追ってきた立場からすれば耳を疑うような主張ですが、本人がそう言うのですからまぁ仕方ありません。もっとも、岡田和生氏の主張には物証らしい物証が何ひとつないのですけれど。
問題を読み解く上で手がかりになりそうなのは、会社サイドが提示した証拠のほうです。こちらは、たしかに根拠になりうるものをそろえてきた感があります。問題の貸し付けが進められていた当時、岡田和生氏からオカダホールディングスやTRAの事務処理を命じられていた側近Xのスマートフォンに残ったデータは、その最たる例です。端末内にあるSMS(=ショートメッセージサービス)のやりとりを追っていくだけでも、当時の現場で何がどう進められていたか大まかなところは把握できるようになっていますし、岡田和生氏から指示が出ていた痕跡もこのなかに見つかります。たとえば、こんな具合に。
損害賠償請求訴訟の証拠資料から
側近X:李社長と話ができました。李社長への貸し付けに変更した契約書を用意することになりました。ただ送金だけは早くしてほしいという事です。
岡田氏:それには応えて下さい。
当の岡田和生氏は、こういった証拠資料の数々を尋問のなかで突きつけられてもなお、
「(一連の貸し付けを知ったのは)あくまでも特別調査委員会の報告だと思います」
と強弁しましたが、さすがに無理があるのではないでしょうか?
【A】の事案で提示された主な証拠資料
※下記のタイムラインのなかで「証拠資料」とある赤色の項目は、各見出しを押すことで詳しい内容が読めます。
オカダホールディングスから李堅氏に貸し付けるまで

TRAから李堅氏に貸し付けるまでとそれ以降
