アルゼゲーミングアメリカ社は、2023年2月1日に米国で連邦破産法11条――いわゆるChapter11の適用を申請した当初、「このプロセスを通じて、アルゼがさらに強力な企業として生まれ変わると確信している」と宣言しました。しかし、この宣言のあと実際に顕在化したのは、残酷な現実です。アルゼゲーミングアメリカは強力な企業として再建を果たすどころか、すでに死に体と化しています。
「清算待ったなし」の現実
再建に意欲を見せていたはずのアルゼゲーミングアメリカがこの先どこへ向かうのかといえば、それは「消滅」だと考えられます。というのも、アルゼゲーミングアメリカはこれまで(倒産企業にとって再建を図る手段になる)Chapter11の手続きを進めてきたものの、手続きの実態を見ると解体同然の内容になっているためです。
アルゼゲーミングアメリカの実情
資産の売却
- 主要事業はすでに売却済み
- 関連して、世界のカジノ市場に向けてゲーミング機器を提供するために必要だったゲーミングライセンスも、認可当局に返上した
- また、被担保債権を持つ銀行グループに、合計940台のゲーミング機器を売却するなど、残る資産の売却も進めている

アルゼゲーミングアメリカの現状をつづった文書のひとつ
事業の売却先は?
競売を通じて、スロットマシン事業はEmpire Technological Groupが720万米ドルで引き取り、テーブルゲーム事業はinterblock社が1400万米ドルで引き取った。前者のEmpire Technological Groupはこの買収を機に、「Aruze Gaming Global」というブランドで事業を展開していくという。
会社は「もぬけの殻」
- Chapter11の申請当時112人いた従業員は、ほぼ全員が2023年8月半ばまでに離職済み
- 時を同じくしてラスベガスの本社も閉鎖した
- 取締役については、Chapter11の申請直前に社長のRob Ziema氏と取締役のRichard Pennington氏が辞任したほか、Chapter11の手続きを進めていくなかで藤澤真澄氏と岡田裕実氏が辞任した
- 最終的に会社に残ったのは、財務責任者として残務処理に携わる木下雄吾氏ただひとり
事業そのものを手放し、従業員もほとんどいなくなっているこの状況からいって、もはやアルゼゲーミングアメリカが再建云々のフェーズにないのは明らかでしょう。事実、足もとでは、管財人がネバダ州の破産裁判所に対して、この件の扱いをChapter11から(会社を清算する手続きになる)Chapter7に変更するよう求めているほか、会社自身も近く再建計画ではなく、清算プランを提示すると公言しています。遅かれ早かれアルゼゲーミングアメリカは、会社をたたむことになるはずです。

アルゼゲーミングアメリカ自ら清算について言及した文書のひとつ
ユニバーサルエンターテインメントに影響はあった?
ユニバーサルエンターテインメントの旧社名は「アルゼ」だが、ユニバーサルエンターテインメントとアルゼゲーミングアメリカの間に資本関係はない。そのため、アルゼゲーミングアメリカの倒産がユニバーサルエンターテインメントの業務や業績に大きな影響を及ぼすことはなかった。
唯一大きな変化が生じたのは、2018年から両者の間で続いてきた法廷闘争。Chapter11にもとづく手続きのなかで、事業の売却を進めなければならなくなったアルゼゲーミングアメリカが、知的財産の権利関係をあらかじめクリアにする必要に迫られたことから、特許侵害の有無をめぐって争っていた米国の訴訟(リンク先の訴訟(a))では、急きょユニバーサルエンターテインメントとアルゼゲーミングアメリカの間で和解契約を結ぶ運びになった。以下は和解の要旨。
両社が合意した和解の要旨
- 両者間で係属中の訴訟は打ち切る
- ユニバーサルエンターテインメントとアルゼゲーミングアメリカは相互に免責することで合意
- ユニバーサルエンターテインメントはアルゼゲーミングアメリカに対して、300万米ドルの一般無担保債権を保有しているものとする
- 和解当事者に、岡田和生氏と岡田和生氏が間接的に所有するAruze Gaming Macau Limitedは含まない
- アルゼゲーミングアメリカは、今後岡田和生氏を支援しないと約束する
岡田和生氏の受難は続く
一連の事態が岡田和生氏に及ぼす影響は、大なり小なりあるはずです。氏は、アルゼゲーミングアメリカの株式すべてを握ってきたオーナーですから、会社がなくなったところで痛くもかゆくもない、なんてことはまずありえません。
もっとも、実際のところ岡田和生氏にとって厄介なのは、「会社が倒産した」ことより、「会社が倒産したところで肝心な問題は片づかない」ことのほうかもしれません。
ここでいう「肝心な問題」というのは、岡田和生氏がずっと未払いにしている弁護士報酬の件です。過去の記事で言及したように、そもそもアルゼゲーミングアメリカの倒産は、Bartlit Beck法律事務所がこの弁護士報酬を岡田和生氏から取り立てるべく動いたことから生じたものでした。彼らは、未払いになっていた報酬の回収を図るなかで、アルゼゲーミングアメリカに岡田和生氏の資産があることを突き止め、差し押さえに動いたのです。
下記の記事は、アルゼゲーミングアメリカの破産を速報したときのものです。
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岡田和生オーナーのアルゼゲーミングアメリカ社が米国で連邦破産法11条の適用を申請
ユニバーサルエンターテインメントと法廷闘争を繰り広げていたアルゼゲーミングアメリカ社が、米国でChapter11――連邦破産法11条にもとづく手続きに入ったと報告しました。米国のChapter11は会 ...
したがって、仮にこののちBartlit Beck法律事務所がアルゼゲーミングアメリカから当該資産を回収できれば、弁護士報酬の件は決着すると勘違いしそうですが、そのような展開にはなりません。これは、差し押さえの規模に着目するとよくわかります。
岡田和生氏が抱える債務にまつわる事実
- Bartlit Beck法律事務所が差し押さえのターゲットにしたのは、岡田和生氏個人からアルゼゲーミングアメリカに貸し付けていた2736万5120米ドル(Bartlit Beckがこれを取り立てようとしたことから、アルゼゲーミングアメリカは倒産した)
- この金額は決して小さなものではないものの、Bartlit Beck法律事務所が岡田和生氏から取り立てようとしている金額(=総額で6300万米ドル超)からすれば、半分以下の規模にすぎない
この先、Bartlit Beck法律事務所が当該資産の一部でも回収できるのか、その点からしてまだわかりませんが、何にせよ今後も岡田和生氏とBartlit Beckの間で、捕物帖のような展開が続くのは間違いありません。
この記事をまとめるにあたって参考にした資料
- ネバダ州の破産裁判所が公表した各種書面
- 特許侵害訴訟において公表された各種書面

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