渦中のユニバーサルエンターテインメント

「オカダマニラ上場」をめぐる対立に結論 当事者間で結んだ契約は白紙に

26 Capital社をパートナーにすえて実現するはずだった、ユニバーサルエンターテインメントの「オカダマニラ擁する統合型リゾート事業の上場」は、実を結ぶことなく幻に終わりました。この上場スキームが公になった2021年10月からおよそ2年の歳月を経て、こんな結論になるとは誰が予想できたでしょう? もっとも、この結論に至るまでに起きていたことを俯瞰してみると、こういう結果になってよかったのかもしれない、と言える側面もあります。一歩間違えば、人知れず裏で不正行為を繰り返していたならず者たちに、ごほうびをプレゼントするようなことになっていたのですから。

オカダマニラ / OkadaManila

元の写真はTwitterから

裁判所は上場に関連して結んだ契約の遵守を命じず

上場スキームの白紙化は、26 Capitalとユニバーサルエンターテインメントグループの間で続いていた訴訟において、米国デラウェア州の裁判所が26 Capitalの請求を棄却したことによるものです。この訴訟で26 Capitalは、「契約で約束した上場スキームの手続きを履行するよう、司法の立場からユニバーサルエンターテインメントグループに命じてほしい」旨を訴えていましたが、裁判所は最終的に「それには応じられない」との判断を下しました

デラウェア州の裁判所から出た判断の要旨

  • 裁判所は、26 Capitalとユニバーサルエンターテインメントの間で結んだ契約の履行を命じない
  • この決定は、主に以下4つの理由にもとづく

(1)複数の法域に及ぶ取引ゆえの困難がある

  • 本件取引の当事者は、米国の事業体だけではない
  • 裁判所から契約の履行を命じるとすれば、その対象はフィリピンの企業(=オカダマニラの運営会社)になる
  • この企業については、コーポレートガバナンスに問題があることも確認された
  • こういったケースで命令を執行するのは難易度が高いほか、命令の執行を監督する難しさもある

(2)フィリピンで効果的に実行できる制裁措置はない

  • 当事者が米国にいる、または当事者が多額の資産を米国内で所有しているケースなら、命令は有意義なものになる
  • 命令の執行が不十分なとき、裁判所は強制的なペナルティを課すことができるから
  • しかしこのケースでは、それが当てはまらない
  • 自国の裁判所が下した判決を執行するために、国家が艦隊を派遣するような時代は過去のもの
  • 当事者は、文字通り当裁判所の射程圏外にある

(3)フィリピンの最高裁から出たSQAOの存在

  • フィリピンの最高裁判所から出たSQAOは引き続き有効
  • 裁判においてフィリピン最高裁の元判事が証言したように、上場スキームに関連した手続きを進めれば、SQAOに違反したとみなされる可能性は否定できない
  • フィリピンの裁判所から当事者に侮辱罪を言い渡す可能性がある
  • 当裁判所は、外国の最高裁判所が下した命令に違反しかねないような行動を当事者にとらせることに消極的

(4)26 Capitalの行動には問題があった

  • 26 CapitalのJason Aderは、Zama CapitalのAlexander Eisemanと共謀してユニバーサルエンターテインメントグループをあざむいた
  • ユニバーサルエンターテインメントグループと契約を結んで業務に従事していたZama Capitalは、26 Capitalの利益を優先することに大きなインセンティブがある二重スパイ
  • 26 CapitalとZama Capitalの協調した行動は、この訴訟で26 Capitalの請求を棄却するのに十分なほど悪質なものだと言える

裁判所が問題視した26 Capitalの行動というのは、Zama Capitalに26 Capitalのスポンサー株式を譲渡していたことと、そうした実態を隠し通してきたことです。

「オカダマニラ上場」を約束したパートナーシップに潜む闇の”核心”

ユニバーサルエンターテインメントが「オカダマニラ擁する統合型リゾート事業の上場」を実現するために、提携相手として選んだJason Ader(=ジェイソン・エイダー)氏。彼はこれまで、「ホスピタリティ産 ...

裁判では、「スポンサー株式を売却するのはよくあること」「Zama Capitalがスポンサー株式を取得するのは、ユニバーサルエンターテインメントグループも了承したことだとZama Capitalから聞いていた」などと主張した26 Capitalに対して、裁判所は「取引の相手方(≒このケースでいえばユニバーサルエンターテインメントグループ)のアドバイザーを務める立場の当事者がSPACのスポンサー株式に投資し、取引の両サイドに立つことが一般的だとは誰も主張しなかった」「Zama Capitalがスポンサー株式に投資したことを、Eisemanがユニバーサルエンターテインメントグループに隠していたことは、やがてAderも知る立場にあった」と言い渡しました。

Zama Capitalに渡っていた26 Capitalのスポンサー株式は、上場が実現すれば3000万米ドル超の値打ちになるものでしたが、上場スキームの白紙化によって、文字通り紙くずになる公算が高いと考えられます。

残るは「損害賠償を認めるか否か」

今般の決定でもって訴訟そのものが決着したわけではありません。決着したのは、あくまで上場スキームの取り扱いについてだけです。今後は、26 Capitalとユニバーサルエンターテインメントグループそれぞれにおいて、契約に違反する行為があったかどうかを判断して、賠償金の必要性について検討していくフェーズに入ります。言い換えれば、上場スキームの白紙化を言い渡された26 Capitalが、その代償としてユニバーサルエンターテインメントグループに賠償金を支払わせる、そんな可能性もまだ残っているのです。

ただ、実際に26 Capitalがユニバーサルエンターテインメントグループに賠償金を支払わせるような展開になるかといえばどうでしょう? これはなかなか現実味がないように思います。前段でふれたように、裁判所は上場スキームに「No」を突きつけた理由のひとつとして、26 CapitalがZama Capitalと共謀していたことを挙げました。このように共謀を非難した裁判所が、もう一方で跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)を許すような措置をとるものでしょうか?


「すべてを知る法律事務所」はなぜ撤退したのか?


第三者の立場からこの法廷闘争を見ていて興味深かったのは、訴訟の後半戦。26 Capital陣営が

  • 「Zama Capitalは、26 Capitalのスポンサー株式を取得するにあたってMilbank法律事務所から助言を受けた」

と主張したところ、ユニバーサルエンターテインメントグループから

  • 「Milbankはスポンサー株式取得の問題点を指摘したあと手を引いた」
  • 「そののちZama Capitalから依頼を受けたのはSchulte Roth & Zabel法律事務所」

と反論されたことにある。なぜなら、このやりとりに出てきたSchulte Roth & Zabelは、この訴訟がはじまってまもないうちに26 Capitalの代理人から降りた法律事務所でもあるためだ。


日付 動き
2023年2月2日 26 Capitalがユニバーサルエンターテインメントグループを提訴
2023年2月20日 ユニバーサルエンターテインメントグループが26 Capitalに反訴
2023年3月27日 ユニバーサルエンターテインメントグループが26 Capitalに文書の提出を要求(※)
2023年3月31日 Schulte Roth & Zabelが26 Capitalの代理人から降りる

※ユニバーサルエンターテインメントグループは、26 CapitalとZama Capitalにつながりがあることを突き止めたことから、関連文書の提出を要求した


状況から推察するに、Schulte Roth & Zabelの撤退が26 Capitalの主張と無縁とは考えにくい。撤退のタイミングがそれを物語っている。おそらく26 Capitalは、Zama Capitalと共謀していたことが問題になると自覚した上で、この裁判を虚偽の主張で切り抜けようとしていたのではないか。

この記事をまとめるにあたって参考にした資料

  • デラウェア州の裁判所が公表した各種書面

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